何故、今、ドクターヘリなのか?  山本五十年
 重篤な患者さんのうち、救命救急センタ−に直送される方は、一体どれだけ居られるでしょうか 。
 多くは、救命救急センタ−から20km圏内であり、それ以外の地域では転院搬送になると思います。しかし、転院搬送途上で悪化した患者さん、転院搬送さえ為されぬままに、preventable death(防ぎうる死)と認識されぬままに、二次救急医療施設で死に至っている患者さんが、たくさん居られます。
 住民も、二次救急医療施設も、実際はpreventable deathであっても、これは救命できないほどの重症である、と諦めている地域がたくさんあります。青森県をはじめとする東北地方、いや、全国の殆どの都道府県で、救急ヘリのシステムの整備により、システムの欠陥によるpreventable deathの発生を抑えることができます。ドクターヘリを実際に運用した者の実感です。


東海大学ドクターヘリ試行的事業

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 神奈川県伊勢原市望星台
 東海大学医学部総合診療学系救命救急医学
 東海大学医学部付属病院救命救急センター
    TEL 0463-93-1121 内線3770
    FAX 0463-95-5337   
    E-mail y50@is.icc.u-tokai.ac.jp
    山本五十年
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<平成14年7月1日の御送信から>

さて、本日から、神奈川県ドクターヘリの運航が開始されました。東海大学病院救命救急センターのヘリポートも改修され、2機のヘリが着陸できるスペースができまして、ドクターヘリ着陸時でも、海上保安庁や消防防災ヘリ、警察ヘリ等の救急ヘリが同時に着陸可能です。

28日にはドクターヘリ運航調整委員会が開催され、その後、就航式が開催されました。神奈川県医師会、6大学救命救急センター、神奈川県衛生部・県防災局、海上自衛隊航空隊、県下27全消防本部、朝日航洋等の57名に、オブザーバーとして、静岡県健康福祉部、山梨県健康福祉部、静岡・山梨の消防本部の12名が加わり、69名の代表者が参集しました。

既に、臨時離発着場の登録が増えつつあり、184箇所になりました。

今後のスケジュールは、次のとおりです。
1)直送
 ・東海大学病院への搬送          :7月1日から
 ・東海大学病院以外の病院への搬送     :10月1日から
2)転院搬送
 ・東海大学病院への搬送、救命センター間搬送:8月1日から
 ・東海大学病院以外の病院への搬送     :3月1日から

当面、東海大学病院への直送を行いながら、慣熟訓練、シミュレーション、臨時離発着場の増設、各救命救急センター・消防本部における運航マニュ
アルの作成や運航調整を行うことになります。

関係諸団体の連携により、経験を蓄積しながら、試行的事業のレベルを越えた、壮大なヘリシステムの構築を目指したいと思います。
今後とも、よろしくお願いいたします。
<平成13年3月10日の御送信から>

昨日、『東海大学ドクターヘリ試行的事業検討委員会・連絡会合同会議』を、神奈川県総合医療会館で開催しました。最後の会議ですので、若干、紹介をさせていただきます。(メモはこちら

神奈川県、静岡県、山梨県から、59団体77名の代表者が参加しました(団体名を末尾にご紹介しておきます)。これだけの広範囲な諸団体が一同に参集した会議は、神奈川県の救急医療の歴史の中で初めてではないでしょうか。21世紀とはこんな時代なんだと、予感させるものがありました。しかも、病院協会、医師会、消防本部の代表、静岡県と山梨県の衛生部局の代表は、本格運用早期実施の期待と希望をもって参加されておられ、厳粛の中に緊張感溢れる会議でした。

時は熟し、神奈川県議会や多くの市議会の中でも取り上げられ、神奈川県議会では、各会派・政党が競い合うように質問をし、すべての会派・政党が、本格運用早期実施を神奈川県に求めています。一部の市議会では、神奈川県への要請文を起草しつつあります。合同会議が終了した翌日、継続実施の共同声明を発した郡市医師会も、一部で、本格運用早期実施を求めて、消防本部との連携を一層強めようとしています。

ドクターヘリ問題をとおして、21世紀型の救急行政のあり方が問われてきました。地域や現場の努力を無視しては県の行政はあり得ないことを、県知事を含め県幹部は痛感したのではないかと信じます。また、逆に、ドクターヘリ早期実施を求める側もまた、あらたな行政のあり方を学んできたと思います。住民の生命と健康を守ることを第1義的な課題とするーこの当たり前のことを、住民とともに実践することが行政の基本であるはずです。

総務省消防庁から救急業務高度化推進委員会の報告書が3月には公表され、ここに示される諸施策を、厚生労働省が支える施策を展開することになると確信しています。問題は地方行政かも知れません。都道府県/市町村が正しい認識をもち、地域や現場の声に耳を傾けながら、県/市町村レベルの施策を打ち出さなければ、国の施策は絵に書いた餅になります。その意味では、ドクターヘリ問題は、県と市町村を鍛える絶好の機会を副産物として提供したようにも思われます。

救急医療は災害とともに、特殊な領域に属します。米国でも、国と州の法律により、災害・救急医療は制度的に保証されています。その制度的な枠組みがあって、個人の能力が生かされているのです。災害救急基本法の制定を視野に入れながら、地域努力を継続していく必要があります。

とまれ、3月末日で試行的事業は終了し、ドクターヘリは消えていきます。残念ですが、仕方ありません。ドクターヘリ本格運用の早期実施が県民の声になった今、早期実施を粘り強く求めながらも、さらに、次元の高いシステムを構築するために、一層努力しなければならないと思います。消防機関、医師会や基幹病院がさらに強く連携し、各地域の救急医療システムの質の改善の一環としてドクターヘリを位置付けなければなりません。chain of survivalの強化のために、救急業務高度化の施策としっかりとリンクさせる必要があります。

飛ばせば良い時代は、神奈川県では終わりました。次に開始されるであろうドクターヘリの本格運用は、21世紀の救急医療システムのあり方を実現するプロセスでなければならないと思います。

●参考サイト(安藤が付記したものです):

  1. 平成12年度ドクターヘリ試行的事業実施要綱
  2. ドクターヘリコプターの試験運用について
  3. 我が国の救急ヘリに対する取り組み
  4. 東海大学ドクターヘリ試行的事業報告書(平成13年4月)